2018年春季低温工学・超電導学会 セッション報告

5月28日(月)
A会場

MRIマグネットシステム 1A-a01-06 座長 宮崎 寛史

「1A-a01:横山(三菱電機)」MRI用高温超電導高安定磁場マグネットシステム開発に関してプロジェクトの概要が報告された。1.5 T-MRI機と同等の形状、
重量、漏れ磁場領域のヘリウムフリー型3T-MRIを高温超電導を適用することで実現する。現在、1/2サイズのアクティブシールド型3Tマグネットの開発を
進めており、11月中のイメージングを目指している。発表後には、コイル保護や熱スイッチを利用した冷却方式に関する質疑があった。
「1A-a02:三浦(三菱電機)」1/2サイズのアクティブシールド型3Tマグネットは、220枚のシングルパンケーキコイルで構成されるが、シングルパンケーキ
の液体窒素中での通電試験において、良品率が減少傾向にあり、原因を調査中とのことであった。1/2サイズのアクティブシールド型5Tマグネットのコイル
最適配置設計においては、外側のコイル群を分割することで、軸圧縮力を135 MPaから30 MPaに低減した結果について報告した。
「1A-a03:白井(京都大)」励磁用(1000 A、±15 V)と磁場保持用(300 A、±2 V)を組み合わせた電源を用いたMRIマグネットの遮蔽電流減衰を予測できる
等価回路モデルについて報告した。
「1A-a04:中村(京都大)」全身3 T-MRI用高温超電導コイルの最適化設計に関して報告した。線電流近似と線材断面構造を考慮したモデルとの空間磁場分布
の比較を行い、磁場均一度が12 ppmから94.29 ppmに変化する結果となった。
「1A-a05:金丸(東北大)」遮蔽磁場の減衰に起因した磁場変動を抑制するため、オーバシュート法を適用した結果について報告した。高い磁場安定性を得る
には、オーバシュート法とコイル運転温度を変化させることが有効であることを示した。発表後の質疑では、通電電流100 Aに対して、オーバシュート量60 A
は値が大きすぎることなどが議論された。
「1A-a06:木須(九大)」パンケーキコイルの劣化箇所を特定するため、走査型ホール素子顕微鏡によって劣化したコイルを観測した結果について報告した。
劣化箇所では磁界強度のピークが変化することが確認された。また、パンケーキコイルでは、筋状に劣化した箇所が複数存在することが明らかになった。


超電導応用 1A-p01-06 座長 野村 新一

超電導応用のセッションでは6件の報告があった。
1A-p01早稲田大の金原氏らの研究グループからは、無絶縁REBCOパンケーキコイルのSMES装置への可能性に関する報告で、層間電気抵抗の大きさと
貯蔵効率の関係についての解析結果に基づき、無絶縁REBCOパンケーキコイルのSMES装置への適用可能性が示唆された。
1A-p02東北大の結城氏らの研究グループからは、REBCO線材を抵抗型限流器に適用する際に、事故電流が流れ込んだ際には高抵抗を示し、その後
素早く超電導状態に復帰することが要求されることから、REBCO線材の安定化層を金属多孔質体(ポーラス体)で置換することが提案され、試験体の
実験報告がなされた。
1A-p03京都大の坂本氏らの研究グループからは、REBCO線材による変圧器磁気遮蔽型の超電導限流器に関して、実験結果に基づき発電機端近傍における
一線地絡事故に対する故障電流抑制効果が確認されている。また、限流器インピーダンスに関してシミュレーションモデルは実験結果を十分に模擬で
きていることが確認されている。
1A-p04足利大の横山氏らの研究グループからは、REBCOバルク磁石のゼロ磁場冷却時におけるパルス着磁に関する実験結果が示され、印加磁場の大きさ
によっては発熱をともない捕捉磁場が低下する場合もあることが指摘された。また、講演ではバルク磁石の磁気分離などの応用の可能性に関して言及
されている。
1A-p05東北大の井上氏らの研究グループからはY系線材による超電導コイルの非接触給電システムへの適用を想定した交流損失の評価が行われ、10 kHz
における交流損失の測定結果から、同じ通電電流時には、線材幅の広い方が低損失であることが報告された。
1A-p06山梨大の關谷氏らの研究グループからは、高温超電導線材のワイヤレス電力伝送を想定した10 MHz領域の高周波特性に関する報告がなされた。
表皮厚さから安定化層(銅)や保護層(銀)に誘導電流が流れることの問題点が指摘され、安定化層をとった線材を用いてコイルサンプルを作成し、
10 MHzにおけるクオリティファクタ(Q値)を測定したところ、銅テープ線よりも高Q値のコイルが製作できる可能性が示唆された。


MgB2 1A-p07-11 座長 石原 篤

MgB2セッションではバルクの高性化に関する発表が2件、線材の高特性化に関わる発表が3件あった。
「1A-p07:中西(東京農工大)」らは、ex-situ法線材の高特性化に向け、表面不純物の少ない活性なMgB2粉末を自製することで、900℃の熱処理によって
も自己焼結反応が進行し、性能が向上することを報告した。
「1A-p08:澤田(青学大)」らは、MgB2C2を炭素源に用いたMgB2の開発を進めており、熱処理条件を最適化することにより、純度の高いMgB2C2の合成に
成功したことを報告した。MgB2C2は従来の炭素源と比較して、低磁場でのJc低下が少ないので、今後の研究の進展が期待される。
「1A-p09:高木(青学大)」らは、Premix-PICT拡散法で作製した高密度バルク体のピン力密度と粒径の関係が、従来in-situ法で知られている逆数の関係
にならないことを報告した。
「1A-p10:児玉(日立)」らはメカニカルミル法で作製した前駆体にカセットロール加工を施すことにより、前駆体粒子の変形が促進され、Jcが向上する
こと、さらにコロネン添加試料ではその変形が更に促進されることを報告した。
「1A-p11:熊倉(NIMS)」らは内部Mg拡散法によるコロネン添加MgB2の100 m級の単芯線材を作製し、そのJe特性を報告した。シース材が薄いほど、また
焼成温度が低いほど、より高いJeが得られており、線材のJeのバラつき、局所的な劣化なども観測されていないとのことであった。


5月28日(月)
B会場

Y系プロセス・臨界電流 1B-a01-06 座長 寺西 亮

本セッションでは7件の報告があった(バルク2、薄膜4、磁束ピン止め1)。
「1B-a01:下山(青学大)」らは、Y123多結晶体を作製する際にCO2を含まない雰囲気下で熱処理し、かつ成型時のプレス圧力を数GPa程度まで増大させる
ことで、粒間Jcを大きく改善できることを報告した。
「1B-a02:元木(青学大)」らは、MOD法にて結晶配向性の高いREBCO薄膜を得る上でハロゲン化物(Ba2Cu3O4X2, X=Cl, Br)を中間層に用いる有用性を示した。
「1B-a03:山崎(産総研)」は、REBCO薄膜中のナノ析出物ピンによるc軸中心のJc-θのブロードピークの要因について、ピン止め点に捕捉されることによる
磁束線の曲がりが寄与していることを示した。
「1B-a04:堀井(京都大)」らは、回転変調磁場を直線方向で連続的に発生できるリニア駆動型装置を新たに開発し、REBCO粉末の3次元結晶配向化への効果を
報告した。
「1B-a05:権藤(青学大)」および「1B-a06:池田(青学大)」らは、フッ素フリーMOD法によるYBCO薄膜における後熱処理効果および厚膜化効果に関して、
透過電顕による薄膜の微細組織の観察結果から通電性能への影響を議論した。
「1B-a07:土屋(名大)」らは、REBCO薄膜中にナノロッドピン止め点を導入して薄膜と基板界面の組織を制御すると磁場印加時のIcに非対称性が現れること
を報告し、超伝導ダイオード実現の可能性を示した。


Bi系・鉄系線材 1B-p01-06 座長 松本 明善

Bi系線材のセッションでは6件の発表があった。
「1B-p01:小池(青学大)」青学大ではDI-BSCCO線材作製プロセスにおける見直しを行っており、その一環として前回に引き続き1次焼成における加圧
低酸素分圧下での効果について研究を行っている。今回は2223相生成速度が速くなった条件について報告があったが、不純物の粒成長も早く、さら
なる最適化が必須であると報告した。
「1B-p02:山田(住友電工)」からは高強度DI-BSCCO線材の開発状況について報告があった。高磁場等で使用が可能なTypeHT-NXの強度、疲労特性および
スプライス方法による接合特性についての報告があり、より高強度および安価なラミネート材としてのSUSについて検討をしているとの報告があった。
「1B-p03:長村(応科研)」からは住友電工のステンレスラミネートDI-BSCCO線材における引張応力下での可逆限界応力の評価を行ったことを報告した。
臨界電流に対する可逆歪限界歪が想定される歪の野総和と実測値で比較的良い一致を示していることを示した。
「1B-p04:呂(九大)」はTypeHT-NXの局所臨界電流分布をRTR-SHPMにより長さ130 mに渡り評価した結果が示された。前回に比べて同レベルの分解能で
より実用レベルとした72 m/hの高速性を達成したと報告した。
「1B-p05:徳田(農工大)」はBa122多結晶材料の超伝導特性に及ぼすボールミルのエネルーギー依存性について報告を行った。エネルギー増大と共にHc2
の方向きが上昇し、高Hc2化が得られると報告した。
「1B-p06:呉(九大)」は平ロール圧延で作製した銀シースBa122線材の磁界中時期顕微鏡観察の結果を示した。ホットプレス法で作製した線材を評価した
以前の結果と比べて、理想的なルーフトップパターンが得られていることから全体的に均質な組織となっていることが予想されると報告が有り、見積も
られたn値も非常に高い値であった事が報告された。


Y系長尺線材 1B-p07-11 座長 堀井 滋

1B-p07 伊東(名大)らは、PLD法と液相エピキタキシーを組み合わせたVLS成長法を利用して、Sm123薄膜の高速成膜を試みた。PLD法でのSm123
膜では、高温成膜もしくは成膜時の高い酸素分圧でa軸配向粒の生成率が高くなる。しかし、VLS法では、PLDで見られたでa軸配向粒の生成は起こら
ないことを示し、線材製造上VLS法は高い優位性をもつと主張した。
1B-p08 平田(フジクラ)らは、IBAD/PLD法で作製した人工ピン入りのREBCO線材の量産化に関する発表を行った。ホットウォール方式の成膜、
REとしてEu、人工ピンとしてBaHfO3を選択し、300 m長の複数の長尺線材を製作した。Icの空間分布は、人工ピンフリー線材と同等の均質性を示した。
また、複数の線材の端部をサンプリングしてJc-BおよびJc-θを測定し、磁場中特性も高い均質性を示すことを報告した。
1B-p09 町(産総研)らは、REBCO線材のレーザースクライビングに関する報告を行った。線材の交流損失や遮蔽電流の低減にはスクライビングが
効果的であるが、加工速度の向上が課題である。本講演では、マルチビームを用いた8~40分割のスクライビングを行った。結果として、所望の
加工が可能であるが、マスクの位置精度が低いために溝深さ分布(加工精度)にバラツキも見られることがわかった。
1B-p10 松坂(名大)らは、基材にあらかじめ高結晶性RBCO膜をシード層として成膜しその後低温でRBCO層を成膜する低温成膜法(LTG法)を基板
移動系の成膜に適用した。基板移動しながらの成膜でも、PLD法よりも高い膜質をもつSmBCOを実現できることを示した。また、移動系になると人工
ピンとして導入したBHOは静止系とは異なることも述べた。
1B-p11 鈴木(九大)らは、人工ピン(BHO)入りEuBCO線材のIc空間分布を磁化法で連続的に測定した。線材には高特性部と低特性部が周期的に
存在することを報告した。これらの部分について、通電法による臨界電流特性を調べた結果、Jc-BJc-θに明瞭な差が現れた。この差の理由と
して2軸配向した超伝導層の面内配向性が異なる可能性を挙げた。


5月28日(月)
C会場

核融合(1) 1C-a01-07 座長 王 旭東

1C-a01 井口(量研機構):ITERのTFコイル容器の製作進捗について報告された。TFコイル容器はトカマク中心側にAUとAP、外側にBUとBPのサブ
アッセンブリがある。2014年から容器の製造を開始し、昨年12月に初号機が完成した。温度管理を行いながらサブアッセンブリを溶接加工する
ことで、隙間や食い違いで要求される精度を満足した。質疑関係、Q)要求公差が厳し過ぎるのではないか?A)取り決め事項であり、自動溶接の
箇所を想定した公差設定である。Q)精度確認の測定を横置きで行う場合と実際の縦置き設置に対して誤差はどの程度か?A)計算では0.1-0.2 mm
程度であり、要求精度への影響はほぼない。
1C-a03 村上(量研機構):JT-60SAの超電導コイルと給電用機器の製作・組み立てについて報告された。トロイダルコイル、平衡磁場コイル、
中心ソレノイドはそれぞれの組立作業が進められている。平衡磁場コイルと中心ソレノイドの製作真円度は要求精度より十分に小さい。コイル
への給電機器は空間の制限から5台を分散で設置するように設計される。給電装置内のコイルから室温部電流リードまでは、熱収縮の影響を考慮
して超電導ケーブルに折れ曲がりを設けて吸収できるように設計・製作された。電流リードは室温側が銅ブスバー、コイル側はNbTiケーブルであ
り、その中間に高温超電導リードが設けられている。質疑関係、Q)電流リードの冷却方法は?A)高温超電導リードは直接冷媒に接触することが
なく、室温側の50 Kガス冷却とNbTiケーブルの4.2 K冷却によって伝導冷却される構造としている。Q)コイル取り付け時の真円度への影響は?
A)1 mm程度と想定している。要求精度より十分に小さい。
1C-a06 高畑(NIFS):LHDポロイダルコイルの20年かの運転実績から、クエンチ検出器の誤検出と誤動作事象について報告された。20年での
コイル冷却時間は54600時間、励磁時間は10600時間であった。クエンチ検出保護システムは2種類の設定があり、発生電圧0.1Vが1s継続した場合
に低速遮断(時定数300 s)と3 s継続した場合に高速遮断(時定数30 s)である。20年間の運転において、10回の遮断が発生し、常伝導転移に
よるクエンチはなく、すべて誤検出と誤動作によるものであった。励磁がないときに、他の機器調整や雷による電圧サージも発生している。結合
電流によるバラス電圧の不平衡に起因したクエンチもあり、1 sの継続時間を1.5 sに変更して対応した。昨年の直近での事象として、検出器の
部品交換後に動作確認で基板が損傷して、初期不良による遮断が発生した。質疑関係、Q)検出器は励磁がないときも動作させているのか?
A)検出器のメンテナンス以外で常に動作させている。Q)部品の初期故障を検査する方法はあるか?A)昨年の事象は、交換部品を磁場中でも動作
確認するのを怠ったため、初期不良を発見できなかったと考えている。


A15線材 1C-p01-05 座長 杉本 昌弘

A15線材のセッションでは、Nb3Al線材1件、ブロンズ法と内部スズ法のNb3Sn線材が各2件ずつ、合計5件の発表があった。
古川(上智大)らは、Nb3Al線材の大気中での急熱急冷処理における通電速度の影響を調べた。処理速度1.0 m/sでは、0.3 m/sよりも表面の酸化が
抑制され、22 T以下の低磁界Icが増大したと報告した。
菊池(NIMS)らは、従来の16 wt%SnブロンズよりもSn濃度を高めたCu-17.5 wt%Sn-1 wt%TiとCu-18.5 wt%Sn-1.6 wt%Tiを用いたブロンズ法Nb3Sn線材
を製作し超伝導特性を評価した。高Snほど低い熱処理温度でNb3Snが厚く形成されてIcが増大するが、16Sn、17.5Sn、18.5Snの順でNon-Cu-JcBc2
が低下した。超高スズ濃度ブロンズの加工性改善のために多量に添加したTiが、Nb3Snに過剰に固溶されたためと考察した。
菱沼 (NIFS)らは、Znよりも少ない添加量で大きい固溶強化が得られるInを添加材とした、Cu-14Sn-3In-0.3Ti合金母材のNb3Sn多芯線を評価した。
Nb3Sn生成熱処理後のビッカース硬度は、従来母材よりも2割近く増大し、19芯サンプルのLayer-Jcは、In無添加材の1.5倍に向上したと報告した。
伴野(NIMS)と森田(上智大)らは、Ti添加場所の影響を調査するために、ダブルスタックのロッドインチューブ法でブラス母材内部拡散法Nb3Sn線
を作製した。NbにTiを添加したNb-1 at%TiおよびNb-1.54 at%Tiと、SnコアにTiを添加したSn-3.88 at%Tiを比較したところ、Ti添加Nbにおいては、Ti
添加Snで生じる断面内におけるTi分布の不均一性やサブエレメント間でのTiの詰まりが改善された。Nb-1.54 at%Tiを用いた線材のmatrix-Jc(Sn拡散
バリアを除いたnon-Cu-Jc)は883 A/mm2@16 T,4.2 Kとなり最も高かった。質疑応答では、Nb3Sn線のTi添加効果について、ブロンズ法と内部スズ法に
おける共通の研究課題として活発な議論があった。


加速器(2) 1C-p07-11 座長 村上 陽之

1C-p07:土屋(KEK):加速器用HTSマグネットの開発の一環で、六極マグネットの試作、4.2 K高磁場下の臨界電流特性評価および接続抵抗特性評価の
報告があった。
1C-p08:藤田(フジクラ):六極マグネットの試作結果について、線材特性を維持したままコイルを製作できた一方、巻線精度は厚さ方向で±1 mm程度
と十分な精度ではなかった。必要となる線材の厚み精度に関する質問に対し、巻線時に精度を高めるよう開発するとの回答があった。
1C-p09:王(KEK):REBCO線材の接続抵抗を調査し、接続面を変えて比較を行った。現状の抵抗値は大きすぎないかとの質問に対し、接続条件を最適化し
0.1 μΩ程度を目指し1桁は抵抗値を下げたいとの回答であった。
1C-p10:福田(阪大): 小型でエネルギー可変の機能を持つHTS空芯型サイクロトロンの有用性について紹介があった。空芯のメリットについて質問が
あり、ヒステリシスの問題を解消しエネルギー可変が実現できること、ビーム強度を高める機器を設置する空間を確保できることとの回答があった。
1C-p11:石山(早稲田大学):空芯型サイクロトロンの等時性磁場やAVFを満たすコイルの基本設計は実現していると報告があった。磁気シールドに関
する質問に対し、病院環境に設置するため漏れ磁場に対するシールドは検討が必要とのことであった。遮蔽電流に関連して磁場変更の頻度について
質問があり、半減期が7.2時間の211Atの生成にも使用するため、一日数回の磁場変更を行う運転パターンを考えているとの回答があった。


5月28日(月)
D会場

MgB2応用 1D-a01-03 座長 岩井 貞憲

本セッションではMgB2超電導線材を使ったコイルに関わる3件の発表があった。
「1D-a01:石見(京大)」日立製作所製のMgB2超電導線材を用いて内径12 mm、外径190 mmで22ターン×24レイヤー巻きしたソレノイドコイルをWind
& React法により試作し、自己磁場中、および外部磁場を印加した状態で通電試験を実施した結果が報告された。短尺線材のIc-B,T特性とコイルIc
(コイル両端で1 μV/cm×全長300 m = 30 mVの電圧が生じた際の電流値)によるロードラインを比較したところ、コイルIcが高い領域では短尺線材のIc-B,T
特性よりも低くなる傾向が示された。原因については今後、調査していくとのことである。
「1D-a02:谷貝(上智大)」MgB2のSMES応用を目指す先端的低炭素化技術開発(ALCA)プロジェクトで試作した先行小型コイルと呼ばれる実機の1/2
サイズの検証用コイルについて、巻線部の一部にスポット的にヒーターを焚いた際の電圧挙動を解析した結果が報告された。エポキシ絶縁層の熱抵抗
を含む過渡伝熱解析で電圧のピークが実験結果に近い形で再現できる結果が示された。
「1D-a03:桑原(上智大)」MgB2素線のラザフォードケーブルにおいて、撚り線前の素線から予想されるIcと実際に試作したケーブルのIcが、当初
想定したエッジ部でのねじり歪での変化率以上に低下する問題について、熱処理前の凹みによる影響を調査した結果が報告された。実機線材で想定
される3パターンの撚りピッチ58, 69, 82 mmで荷重600 Nまで印加したところ、明確なIcの低下が観測されたとのこと。撚りピッチが長いほど受ける
荷重が分散されるためIcの低下率が抑えられており、今後、断面観察のほか実機適用に向け対策を検討していくとのことである。


磁気分離(2) 1D-p01-08 座長 岡 徹雄

本セッションでは磁気分離を応用した技術開発に関する8つの口頭発表が実施された。
1D-p01の西嶋(福井工大)らは、火力発電所におけるボイラー内に蓄積する酸化鉄スケールの除去に、超伝導ソレノイド磁石を用いた高勾配磁気分離が
応用できることを示し、そのJSTのALCAプロジェクトの支援を得て実施した研究計画の概要について講演した。
1D-p02の岡田(物材)らは同じプロジェクトのおいての実際の磁気分離結果について報告し、12枚のマトリックスを装填した場合に90%以上の平均捕捉率を
記録してその有効性を示した。
1D-p03の山本(阪大)らは同じくALCAの当該プロジェクトにおいて大規模化に伴って発生する課題を予知して、実際の投入量に対して87%の捕捉率が得ら
れたことを報告した。
1D-p04の酒井(宇都宮大)らは、磁気活性汚泥法による磁気分離の実現性について述べ、その中で大規模なシステム応用に超電導化のメリットが現れる
処理量を2000トン/日以上であると予測した。
1D-p05の石井(宇都宮大)らは、磁気分離された汚泥の乾燥工程における磁気分離の優位性を認め、メッシュの配置を工夫して、経済性の工夫が評価された。
1D-p06で小林(宇都宮大)らは、食品工場から放出される下水放流にMAS法やB-MAS法の有効性を示し、当該年度の環境賞・優秀賞を得たことを報告した。
1D-p07で江田(宇都宮大)らは、メタン発酵を利用して得た廃水から磁気分離によって硫酸ニッケルを原材料としてお送りすることとなりました。
1D-p08の赤澤(神戸大)の情報では、タンカーのバラスト水の構成とその応用実験をシッジした。パラ磁性の魚卵(トビコ)を使い、角型水路を構成して
内部の流路内の処理水の偏りを利用した磁気分離法の提案を行った。


5月28日(月)
P会場 ポスターセッションI

Y系線材諸特性 1P-p01-05 座長 町 敬人

1P-p01:名古屋大の松坂らは、 REGREB (REBCO growth using REBCO buffer-layer)法を用いて線材作製の高速化の基礎実験を行った結果を報告した。
この手法はLTG法の延長上のものであるとのことだった。
1P-p02:九工大の木内らは、磁化緩和を用いた測定を用いて、厚さ一定でピン止めセンターがある場合と無い場合、また厚さが異なる場合の緩和から
ピニングポテンシャルの評価を行った。厚い試料の場合には緩和が遅いという結果を得ていた。
1P-p03:京大の井上らは、配向Cuを基材としたYBCO線材の中間層の導電性についてYBCOに欠陥がある場合とCuに電流端子を設けた場合の2つに
ついて有限要素法による解析を行い、中間層に必要な最大の電気抵抗率を求めていた。
1P-p04:島根大の舩木らは、KOHを用いたRE系超電導線材の接合の試みを行い、525˚Cという低温で超電導接合を実現した結果を報告した。ただし、
接合部のTcは60 K程度であり、液体窒素中での超電導接続にはなっていないが、これまでの報告例よりもかなり低い温度で接合できる可能性を示した
意義は大きい。
1P-p05:島根大の宮地らは、RE系超電導線材でYBCOの溶融バルクではなく焼結体を挟み込むことで超電導接合に成功したと報告した。接合後の焼結体の
表面はc軸配向しており、REBCOが種結晶のような役割を果たした可能性がある。

構造材料 1P-p06 座長 小野 嘉則

1P-p06: 中部大学の神田らの発表「GFRPの熱伝導率測定と熱侵入量の見積もり」では、超伝導送配電システムの低温部の支持構造材料として使用して
いるGFRPについて、冷却状態における熱侵入量低減のため、積層方向が異なるに試料の熱伝導率を評価されていた。試料は、プリプレグシートを測定面
と平行方向および垂直方向に積層したもので、厚さは1.5 mmである。温度制御が可能なGM冷凍機のコールドヘッドに取り付けた銅製のブロック上に試料
を置き、ヒーターを内蔵したアルミニウム製のブロックで試料を固定し、クライオスタット内でヒーター側温度と冷却側温度を測定した結果を用いて
熱伝導率を求められていた。実験の結果、ガラス繊維の方向が、熱の伝わる方向に対して垂直になるように加工することで外部からの熱侵入が小さく
なることが示された。また、そのように加工することで使用時に重要となる圧縮強度も高くできることが示されていた。
2018年春季発表会の構造材料セッションの講演は、前述のポスター講演のみであった。低温技術開発には構造材料の研究は必須である。構造材料を専門
とする自分への鼓舞の思いも含めて、本セッションの活性化を望む。


NMR・MRI・産業応用 1P-p07-09 座長 柁川 一弘

1P-p07:盛川(岡山大)らは、REBCO線材を巻いたNMR用HTSインサートコイルを対象に遮蔽電流磁場を数値解析し、レイヤー巻きとパンケーキ巻きに
おける励磁後の中心磁場の時間的安定性が同程度であることを確認した。
1P-p08:稲垣(早大)らは、REBCO線材を巻いた高磁場MRI用HTSマグネットにおける分割コイルの一部のパンケーキ巻線を幅の狭い線材で置き換える
ことにより、遮蔽電流磁場による空間不均一性を改善できる可能性を数値解析的に明らかとした。
1P-p09:許(明治大)らは、ドラッグデリバリーシステムへの応用を目指して、4組のヘルムホルツコイルを組み合わせた微小磁性体の連続的位置制御
方法を提案し、磁場が最大となる点を調整することにより磁性体を移動できることを実験的に確認した。


磁気分離(1) 1P-p10-14 座長 秋山 庸子

磁気分離(1)では5件のポスター発表が行われ、活発な議論が行われた。5件の発表はいずれも宇都宮大学の酒井保蔵准教授らの研究グループで
行われた、磁気分離による水質浄化に関するものであった。うち4件は磁化活性汚泥法に関するもの、1件は磁気分離教育のためのデモンストレー
ションに関するものであった。前者に関しては、プラント設計のための標準化、既存手法との比較、磁気的種付けに用いるマグネタイトの性能評価、
および活性汚泥に対する分離選択性による検討がなされており、本文やにおいて磁気分離プロセスが実用化段階に入ったことを印象付けるもので
あった。また磁気分離教育に関する研究では、実際に磁気分離のデモ実験を行っており、排水処理への有用性を分かりやすく示していた。


加速器(2) 1P-p15-18 座長 井口 将秀

1P-p15 栗津(岡山大):1P-p16の発表に連なる研究成果の一つであり、1P-p16で実施したコイル設計に与える、遮蔽電流磁場の影響を計算にて評価
した結果の発表である。超伝導コイルに用いられる高温超電導線材はテープ形状であるため、形状に起因した遮蔽電流磁場が発生する。発表者は、
非線形電磁場数値解析を行い、その影響を確認した。その結果、コイル設計に影響を当てるような遮蔽電流磁場は生じないことが判明し、空芯型サイ
クロトロンの品質が確保されることが分かった。
1P-p16 野口(北大):エネルギー可変で多種類の粒子を加速可能な高強度小型サイクロトロンとして発表者のグループが研究開発を進めている空芯
型サイクロトロンに関して、高温超電導コイルの磁場及び構造設計に関する発表である。発表者らはアルファ線核医学治療に用いられる211At を生成
するために,4He2+を36 MeV まで加速する小型サイクロトロンの研究開発を行っており、コイル形状・位置等を設計変数としてGA-SA 法を用い,使用
超電導線材量が最少となるよう設計最適化を行い、コイル設計を完成させた。今後コイルの試作を経て実機製造に進む計画である。
1P-p17 尾花(NIFS):重粒子線用回転ガントリーの軽量化に関する研究成果の発表である。総重量の内支配的である鉄ヨーク使用しない、アクティブ
シールド型超伝導マグネットの磁場解析を実施し、その有効性を明らかにし、軽量化に向けた道筋を立てた。
1P-p18 岩本(NIFS):ITER超伝導マグネットシステムにおける冷却システムのダイナミックシミュレーションの結果についての発表である。発表者は
ITER超伝導マグネットへの熱負荷を適切な領域に分割し動的な解析を行い、熱負荷変動を評価した。その結果、現在設計されている冷却システムで
問題なく除熱できることが明らかとなった。




5月29日(火)
A会場

超電導接合 2A-a01-07 座長 西島 元

超電導接合セッションでは7件の発表があった。前半5件は昨年度よりJST未来社会創造事業において開始された「高温超電導線材接合技術の超高磁場
NMRと鉄道き電線への社会実装」(研究開発代表: 前田秀明)の参画者による発表であった。参加者は約90人であり、質疑応答も活発であった。
(2A-a01) JST-MIRAI「超電導接合」研究開発代表の前田氏(JST, 理研)より、プロジェクトの概要が説明された。本プロジェクトは、超電導接合
技術を1.3 GHz NMRと鉄道き電線(直流ケーブル)に応用することで高温超伝導技術の社会実装を進展させることを目指している。理研、JASTEC、
青学大、東工大、鉄道総研等、産官学から18機関が参画しており、予算規模は4億/年である。
(2A-a02) 理研の柳澤は、400 MHz NMR用REBCO内層コイルの4 Kにおける単体試験結果について報告した。このプロジェクトではREBCO内層コイルを2個
試作する計画である。本コイルは1個目に相当し、ジョイント特性が設計値を満たさなかったが、4.2 Kで100 Aを通電した後に永久電流モード運転した
結果、中心磁場の減衰時定数から算出されるジョイント抵抗は10-11 Ω以下であったと報告した。
(2A-a03) 東大の武田は、Bi2223線材同士の超伝導接合について報告した。スラリー→グリーンテープ→一軸プレス→熱処理のプロセスを住友電工製
DI-BSCCO線材同士の接合形成に応用し、77 K、自己磁場で100 Aを超えるIcを得たと報告した。
(2A-a04) 室蘭工大の金は、Bi2223線材同士の超伝導接合を、分解溶融を用いて開発している。ジョイント単独のIcは77 Kで12 Aであったが、4.2 K
では177 Aであった。また、コイル電流減衰法による測定(77 K)では、ジョイント抵抗は10-12 Ω程度であると報告した。
(2A-a05) NIMSの伴野は、超伝導半田を用いてREBCO-NbTiの超伝導接続に成功したと報告した。フジクラ製GdBCO線材とNbTi線材の接続では、4.2 K、
自己磁場中で170 A以上のIcが得られている。しかし、SuperPower製REBCO線材ではまだ成功していないとのこと。今後各種線材に対するジョイント
開発が期待される。
(2A-a06) 産総研の高島は、超伝導接続のためのエピタキシャルNbTi薄膜について報告した。REBCO膜上への成膜を目指し、前段階として格子状数が近い
SrTiO3基板上に成膜を行った。メリットとしては室温成膜が可能なことである。膜厚100 nm未満ではTcの膜厚依存性が見られ、100 nm以上600 nm以下
ではTcは8.5 Kから9.0 Kであった。この方法によってYBCOエピ薄膜上にNbTiを室温成膜できる可能性があると報告した。
(2A-a07) 九大の寺西は、薄膜線材上に追加堆積膜を作製して対向させる方法でのREBCO線材同士の超伝導接続について報告した。酸素アニール時のガス
拡散を向上するために、前駆体表面に溝を加工したところ、Tcは90 K程度まで向上した。しかし、Icは11 A @10 Kであり、まだ向上の余地が十分にある。


HTSマグネット 2A-p01-04 座長 植田 浩史

2A-p01 淡路(東北大):本発表は、東北大に建設された25 T無冷媒超伝導マグネット(25 T-CSM)のこれまでの1年以上の運転実績に基づくコイル運転
特性の報告である。質問では、コイル電圧のスパイクノイズについて詳細な説明が求めるものがあった。運転開始当初は、LTSコイルとHTSコイル双方の
電圧にスパイクノイズが頻繁に現れた。Wire movementによるものと考えているとのことで、現在は、LTSではほとんど現れないが、HTSではまだ現れて
いる。HTSコイルはフープ力低減のため、ターン間を離間していることが原因と考えているとのことであった。25 T-CSMの結果を踏まえて、30 T無冷媒
超伝導マグネットの開発を計画している。
2A-p02 吉田(東北大):本発表は、高磁場用マグネットの内層高温超電導コイルにYoroi-coil構造を適用した際の応力伝達特性を数値解析で評価した
結果の報告である。内層コイル全体のYoroi-coil構造と、パンケーキコイル毎にYoroi-coil構造を構築したものを積層した構造と、オーバーバンド構造
の3つについて比較検討した。内層コイル全体のYoroi-coil構造が有効であるとの結果を得た。
2A-p03 溝畑(京大):遮蔽電流磁場の低減のため、マルチフィラメント化した薄膜線材が有効であるが、線材両端に接続される銅端子を介する結合電流
が流れる。本発表では、数値解析によって、この銅端子の影響を評価した。ソレノイドコイルでは、銅端子の影響はほとんどないが、パンケーキコイル
では、銅端子をつけると遮蔽電流磁場の減衰が遅くなることがわかった。質疑では、銅端子と線材の接続抵抗が影響を受ける可能性を指摘されたが、
銅端子ブロックが十分大きいのであまり影響しないとのことであった。
2A-p04 曽我部(京大・学振DC1):高温超伝導コイルと強磁性体のヨークから構成されるスーパーフェリックスマグネットをシンクロトロンに適用する。
本発表では、マグネットを構成する高温超伝導コイルの交流損失を評価する電磁界解析手法について検討した。コイルが経験する磁界を、コイル通電電流
による磁界と鉄ヨークの磁化による磁界に分けて計算する。また、消費メモリおよび計算時間の削減のため階層型行列法を適用した(95%の削減効果あり)。
以上の手法を併せた3次元電磁界解析による交流損失計算の結果、コイル内の損失分布と磁場分布の関係が明らかとなった。今後は、消費電力削減のため、
マグネット形状の設計が重要となる。


5月29日(火)
B会場

バルク(1) 2B-a01-07 座長 井田 徹哉

バルク(1)セッションではREBCOバルク、MgB2バルクに関する7件の講演が行われた。
2B-a01:岡(芝浦工大)らはGdBCOバルクに対してパルス磁場を印加して1回着磁をした後に、磁場の向きを逆にして2回目のパルス着磁を行った
際の捕捉磁場特性について発表した。従来通り同じ向きに2回着磁した場合よりも侵入磁場が3.5倍以上早く立ち上がることを示した。
2B-a02:下屋敷(岩手大)らは異なる3つの径のGdBCOバルクに対してスプリットコイルを用いたパルス着磁を行い、ソレノイドコイルによる着磁と
比べて低い印加磁場によって最大捕捉磁束密度に達する傾向を示した。実験結果と3次元有限要素解析から、バルク径の増大に従いバルク内の温度
が不均一となり捕捉磁場分布の乱れと最大捕捉磁束密度の低下を生じた可能性を示唆した。
2B-a03:松丸(青学大)らはGd123とGd211のモル比を変えてGd123溶融凝固バルクを作製し、優れた磁化率の温度依存性とJcの磁場依存性をから
7.5:2.5においてGd/Ba固溶量が少ないことを示唆できると発表した。組成比7.5:2.5の試料でBaを過剰となるよう制御したときTcと磁場中のJc変化
は組成比7:3の場合と大きく異なることから、仕込組成比に対して最適Ba量が変化することが示唆された。
2B-a04:高橋(岩手大)らは浸透法で作製したMgB2バルクのJc-B特性向上のためにボールミリングしたB粉末のEDXによる定量分析と元素マッピング
について発表した。目標とするバルク寸法、400 rpmと600 rpmのボールミル粉砕に対するXRDの結果とJc-B特性について質疑があった。
2B-a05:藤代(岩手大)らはスリットを入れたGdBaCuOバルクからなる磁気レンズの周囲にMgB2またはGdBaCuOバルク円筒を設け、印加外部磁束密度
を上回る強磁場を持続的に発生できるハイブリッド型超電導磁石について提案した。既に報告のある磁気レンズと異なり、この構成では外部磁場の
印加を止めた後も強磁場を発生し続ける。磁気レンズと円筒形バルクを分離した構造などについて質疑があった。
2B-a06:森田(新日鐵住金)らは外径60 mm、内径35 mm、高さ20 mmのリンク形Gd系QMG®を6個積層し、6 T/40 Kでの磁場中冷却時に多重積層リング
端部で大きな歪みを生じることを発表した。40-60 Kでの多重積層リング内中心付近の磁場分布はほとんど同じ大きさ一定しており、端部に近い領域
で急減少した。
2B-a07:張(九工大)らはYBCOにピン止めした永久磁石に研磨剤を付けて浮上回転させる加工装置を開発し、引力と駆動力について有限要素法解析
について発表した。加工装置の配置や研磨に必要な圧力を高める引力の向上について質疑があった。


冷凍機・断熱技術 2B-p01-04 座長 斎藤 明子

2B-p01:帝京大の大森らは、多層断熱材(MLI)の断熱性能の検討結果を報告した。液体窒素タンクの側面に30層スイスロール巻したMLIブランケットに
上下を分ける切れ目を入れ、切れ目の入れ方やブランケット端部の包みこみなど施工の相異による断熱性能の違いを定量評価した。包みこみによる高温
面と低温面の熱架橋が大きな断熱性能低下を齎すことを示した。
2B-p02:中部大の渡邉らは、石狩プロジェクト用の送電用真空断熱配管の熱侵入について報告した。外管の中に敷設されたケーブル管(超伝導ケーブル用)
及びリターン管(液体窒素リターン用)の熱侵入量の外管温度依存性は、評価法が異なっても単一フィッティング曲線に乗り、輻射と熱伝導の比で整理
できる。また、管に巻いた断熱材の総層数(束×段)が同一でも、束と段の組み合わせにより効果が異なり、熱侵入の支配因子(輻射、熱伝導)と関連すると
考えられる。
2B-p03:同済大の朱は、2段JTバルブ冷凍機において、最終段の熱交換器にJTバルブの役割も担わせるアイディアを提案した。JT冷凍機は、GM冷凍機と
比べて4 Kでの効率が高い反面、構造が複雑でJTバルブのトラブルも多いが、最終段のJTバルブを省くことで、信頼性向上・小型化などのメリットがある。
計算から、高圧側の圧力と予冷温度の最適値があること、熱交換器の圧損を適正化することで、高効率でシンプルなJT冷凍機が実現できることを示した。
2B-p04:産業用途で広く用いられているGM冷凍機の4Kでのカルノー効率は2%にも満たない。効率向上を目指して、蓄冷材や蓄冷器構造に着目した研究が
行なわれてきたが、大島商船高専の増山らは、圧縮機に着目した性能検討について報告した。4 K -GM冷凍機に、同等な電気入力で圧縮方式が異なるロータ
リー型とスクロール型の圧縮機を用いて性能を比較した結果、質量流量を大きくとれるスクロール型圧縮機を用いた方が高い冷凍能力が得られ、4 Kで1.7 W
を達成し、効率向上の1つの指針が示された。




5月29日(火)
C会場

HTS線材交流特性 2C-a01-04 座長 東川 甲平

本セッションでは、高温超伝導線材の交流特性について4件の報告があった。
2C-a01:小川(新潟大)らは、全方向磁界を印加した条件におけるBi系線材とY系線材の磁化損失のモデル化について報告した。従来研究では
電流に垂直な外部磁界に対する交流損失の評価が主であったが、本研究では電流に平行な成分を有する場合まで含めて、定量表現に成功していた。
2C-a02:三浦(九大)らは、ピックアップコイル法による2本REBCO並列導体の交流損失評価について報告した。このような並列導体で巻かれた
コイルの交流損失の周波数特性は複雑であるが、n値モデルの考慮によってその特徴を良く表現できていた。
2C-a03:雨宮(京大)らは、CORCケーブルの交流損失測定について報告した。購入した状態から1素線ずつ取り除いていくことで、様々な構成
のCORCケーブルの交流損失を詳細に評価しており、CORCケーブルの交流損失の支配因子を明らかとした。
2C-a04:東(産総研)らは、中空円筒上の螺旋巻き超伝導テープにおける掃引磁場中の電磁応答について報告した。螺旋巻きの超伝導テープの
交流損失を解析的に導出しており、損失低減の理論限界も明らかとした。


Y系線材評価(2) 2C-p01-04 座長 木内 勝

上智大の西岡ら(2C-p01)は、超大型加速器のマグネット用線材として利用が期待される、市販REBCO線材の臨界温度Tcを、直流磁化率測定から求めた。
得られたTcは、用いるREの違いはあるが、90~94 Kの範囲に入ることを報告した。今後はマグネット設計で重要な臨界電流密度JcTcの関係を明らか
にする予定で、展開に期待したい。
東北大の岡田ら(2C-p02)は、BHOナノ粒子を添加した極薄一回塗布膜厚MOD-REBCOコート線材の縦磁界下でJc特性を評価した。磁界の増加と共にJc
が増加するピーク効果は観測されなかったが、横磁界に比べて縦磁界のJcは全ての温度領域で大きく、更にピン添加によりJcが大きくなることを示
した。ただし、低温度になると、縦磁界に比べて横磁界のJcの増加が大きいため、その差は小さくなる傾向があることを報告した。
中部大の筑本ら(2C-p03)は、超電導線材接続に注目し、四端子法により接続抵抗測定と、3次元ホールプローブによる接続部の磁場分布を評価し、
電流分布を求めた。接合する技術にも依存するが、接続端部に比べると中央部で大きな電流の流れが存在することを示した。
フジクラの武藤ら(2C-p04)は、REBCO線材の長手引張特性を調べるために、液体窒素中で引張試験を実施し、得られた結果に対してワイブル解析を行い、
統計パラメータを抽出した。特に線材の累積破壊確率のばらつきを表すm値が、以前評価した線材の厚さ方向のm = 3に比べて、長手方向ではm = 48と
非常に大きく、長手方向の線材の強度の均一度が高いことを示した




5月29日(火)
D会場

冷却系基礎 2D-a01-05 座長 仲井 浩孝

2D-a01: 武田(神戸大)らは、液体水素を輸送する際の横振動下における液体内の温度分布を明らかにするため、横振動下での液体ヘリウムおよび
液体窒素の 温度分布変化を測定した。温度計が波打つような温度変化を示したが、これは実際の液温の変化と考えている。加振によって液体窒素
は温度成層が崩壊したが、液体ヘリウムは崩壊しなかった。
2D-a02: 塩津(京大)らは、管状流路中心の円柱発熱体における液体水素の膜沸騰熱伝達の測定を行い、これまでの測定で得られた膜沸騰熱伝達
表示式との比較を行った。測定値は表示式よりも大きい値を示し、発熱体曲率の影響と考えられる。
2D-a03: 松本(京大)らは、円筒発熱体の液体水素強制対流下での膜沸騰領域の熱伝達について測定を行った。過熱度が大きい場合は膜沸騰の
蒸気膜が厚くなるが、一方で液相の流速が大きくなるため、熱伝達特性が向上すると考えられる。この蒸気膜の厚さと液相の流速、熱伝達係数と
の関係に関する議論があった。
2D-a04: 寺田(東大)らは、走査型プローブ顕微鏡用ヘリウム循環システムに使用される低振動低熱損失ヘリウム移送管が、間欠的な送液を繰り
返す自励振動を起こした。液が流れる時間に対し、ガスのみ流れる時間が長くなって送液効率が低下するため、流量が少なくても液が流れ続ける
ことが重要である。
2D-a05: 戸田(東大)らは、作業物質としてPrNi5を用いた2つの小型核ステー ジと亜鉛を用いた2つの超電導熱スイッチを採用して、断熱消磁方式
の小型超低温連続冷凍システムを開発している。


デバイス 2D-p01-04 座長 日高 睦夫

岡山大の竹内等から磁気ナノ粒子を用いたCRPの磁気免疫分析方法の報告があった。C反応性タンパク(CRP)をターゲットとして高温超電導SQUIDを
用いた磁気免疫検査装置での測定が行われた。炎炎症反応等によりCRPの凝集が進むとCRPの回転が抑制され磁気ナノ粒子からの信号が低下する。
予備実験によりCRP凝集に対応した信号低下が確認された。
岡山大の平田等は磁気コイルと磁気センサを用いた非破壊検査用高周波数帯磁場検出器開発について発表した。この研究は高速道路や橋梁等のイン
フラ金属部分の腐食や欠陥の検出を目的としている。検出器には高温超電導コイルとトンネル型磁気抵抗素子センサを用いており、75 mmのリフト
オフがある場合でも金属スリットの存在を検出できていた。
名大の佐野等は表面障壁の制御による超伝導三端子素子の可能性について報告した。大きなゲインが期待できる超伝導三端子素子としてナノクライオ
トロン(nTron)が最近注目を集めているが、動作に熱の効果を利用しているため立ち上がり時間が長くなってしまうという問題点があった。佐野等は
NbTiNでnTronを作製し、チョーク部分の形状に起因して局所的に電流が集中し結果としてnTronがスイッチする現象を見出し、熱の効果に寄らないnTron
スイッチの可能性を示した。
横国大の真田等はGoldschmidtアルゴリズムという原理に基づく単一磁束量子(SFQ)浮動小数点除算器の設計を行った。このアルゴリズムはパイプ
ライン化に適しており、ラッチ機能を有するSFQ論理回路に適していると考えられる。




5月29日(火)
P会場 ポスターセッションII

計測・基礎 2P-p01 座長 木村 誠宏

2P-p01 (水野ら、鉄道総研)は断熱真空槽内を高真空に保持するための吸着材の評価結果が報告された。2種類の吸着材(モレキュラーシーブス
並びに活性炭)それぞれについて樹脂材料由来のアウトガスを想定した水素ガスに対する吸着特性の評価が行われている。実験結果から、活性炭
がモレキュラーシーブスに対して100倍程度吸着特性が優れていること、さらにベーキングを行わなくても常温による真空排気のみで吸着特性が
再生可能であることが報告された。


冷却コンポーネント 2P-p02-03 座長 大森 隆夫

2P-p02 LNGと電力を送るハイブリッド管の設計:液体窒素で冷却する高温超伝導送電ケーブルに液体窒素管路で冷却する断熱シールドを組み込み、
超電導ケーブルラインへの熱負荷を大幅に抑制する実証実験が行われてきた。しかし、従来の送電線に比べ複雑な極低温ケーブルを敷設することは、
途中に液体窒素の供給ステーションを配置する点も含め、難しい問題が多い。著者らはLNGで冷却する断熱シールドを採用しても断熱シールドが無い
場合よりケーブルラインへの熱負荷を10分の1に減らせると見込んでいる。LNG輸送ラインに超電導ケーブルを組み合わせることにより実現性向上を
示唆する発表である。
2P-p03 Thermal behavier of liquid nitrogen heat pipe under wide range heat load condition:安価な市販品として入手できる銅パイプ製ヒート
パイプの作動流体を液体窒素に変え、その充填率と熱抵抗の大きさ、熱輸送量の増加に伴う熱抵抗の増大やドライアウトの発生の様子がわかった。また
ヒートスイッチへの応用などが示唆されている。


小型冷凍機 2P-p04-06 座長 春山 富義

「2P-p04:森岡(愛媛大)」GM冷凍機の磁性蓄冷材の候補として研究を行っているGdNiGe、GdNiSiのGdをErに置換した場合の比熱特性についての
報告である。Erの置換量は0から100%として、2-16 Kの比熱を測定した。GdErNiSi、GdErNiGe双方とも、Gdのみの時に見られた比熱の大きなピーク
はなかったが、Erで完全に置換のErNiSi、ErNiGeは双方で、2.3 K、2.8 Kにピークが見られた。3 K以下の磁性蓄冷材として可能性がある。
「2P-p05:山下(東芝)」GM冷凍機蓄冷材としてPbが使われてきたが、RoHS指令適用になり、Pb使用ができなくなることから、Pbに匹敵する低温
での比熱特性を示すAg2Oに着目、バルクのAg2Oを作製、比熱測定および冷凍機搭載実験を行った。バルクでの比熱特性はPbに近く、冷凍機蓄冷器
に搭載したが、最低温度はPbと同じ程度という結果であった。今回は通常の蓄冷材のような0.2〜0.3 mmの球状ではなく、1 mm以上の粒子である
ことから、今後の課題として均一な球状粒子の作製を目指す。
「2P-p04:竹内(富士電機)」富士電機が1975年から開発、製品化を行ってきた小型スターリング冷凍機、およびパルス管冷凍機に関する報告で
ある。ASTER衛星搭載用冷凍機開発の際には有機材料量の最小限化による7万時間以上の寿命をもつための材料管理手法を確立している。なお講演
概要集に記載された図やテーブルの文字サイズが小さすぎるため、情報を読みづらいのが残念である。


Y系線材評価(1) 2P-p07-10 座長 藤田 真司

2P-p07:京大の曽我部らは、NiWのような磁性基板を用いたREBCO線材の通電評価と磁化緩和評価の結果を報告した。磁化緩和評価では磁性基板の磁化
が影響し、算出されるn値が極端に大きな値となり、正確な評価ができないとの事であった。
2P-p08:総研大の松永らは、REBCO線材の通電時の面内電流分布をホール素子アレイを用いて測定しており、面内電流分布は給電電極の接触等には依らず
ほぼ均一であるとの結果を得た。
2P-p09:東海大の小野寺らは、半田接続したREBCO線材の引張強度を評価した結果を報告した。接続部の半田量が多いと半田部が破壊し低応力で劣化が
見られ、半田量が少ないと強度は向上した。半田が薄く、高強度で劣化した場合はREBCO線材内部で破壊しているとの事である。
2P-p10:東海大の小黒らは、複数のメーカーの市販REBCO線材の引張強度を液体窒素中で評価した結果を報告した。各社線材構造によって振舞いが異なる
が、Fujikura製が最も高強度であるとの事である。


バルク(2) 2P-p11 座長 岡 徹雄

本セッションではREBCO系の溶融バルク酸化物超伝導体の合成と評価がテーマであり、1件のポスター発表があった。
2P-p11の宇田川(芝浦工大)らは、YBCOバルクにカーボンナノチューブを添加して混合粉を合成した。この材料組織における炭素は針状に残存して
ピン止め点を誘発し、Jcの値を向上させることに成功した。


電力応用 2P-p12-15 座長 川越 明史

電力応用4件の発表があった。ケーブル関連が3件、限流器関連が1件である。
2P-p12:森(住友電工)らは、超電導ケーブルの地絡事故発生時に起こりうる液体窒素の漏出の影響を評価するために、実験と解析を行った結果
を報告した。今回は小型容器を用いた要素実験を行い、圧力変化と温度変化について、解析結果とよく一致する結果が報告された。
2P-p13:山口(中部大)らは、石狩プロジェクトで使用したケーブルで観測された大きな熱侵入(解析の50倍)について、原因究明とその低減の
ための検討結果を報告した。多層断熱膜(MLI)間の温度差を、超小型熱電対を用いて測定し、フィルム間の熱輸送量を見積もった。
2P-p14:岩月(鉄道総研)らは、直流き電鉄道へ超電導ケーブルを導入する際に、効果的な導入箇所について検討した結果を報告した。想定して
いる路線モデル全体に導入する場合と、いくつかのケースの導入箇所の場合とで比較した。変電所の最大出力を低減する箇所と、消費エネルギー
を低減する箇所について報告された。
2P-p15:銭(東大)らは、REBCOコイルを用いた限流器のホットスポット問題を解決するために、三次元の電磁界・熱伝導場連成解析を行った。
REBCO線材の銀層の厚みが薄すぎるとホットスポットが生じ、厚すぎると抵抗が小さくなり限流動作時の電流を十分に抑えられないことが報告された。


回転機(1)・磁気軸受 2P-p16-21 座長 中村 武恒

2P-p16:東大の赤田らは、高温超電導バルク体を利用した埋込磁石同期モータ(IPMSM)に関する解析的検討結果を報告した。高温超電導バルク体
について、磁石ならびに磁気遮蔽体の両特性を具備するようにモデル化し、典型的な回転子構造に対してそのトルク特性を明らかにした。
東大の勢田らは、電気推進式航空旅客機用の1 MW 級全超電導モータについて、出力の理論解析式を用いた検討を行った。
2P-p17:MgB2電機子巻線およびYBCO界磁巻線を使用した場合の計算結果が示され、例えば出力密度や効率について、電機子直径およびギャップ磁束
密度との関係が議論された。
2P-p18:東大の加藤らは、10 MW級全超電導回転機について、2次元軸対称モデルによる冷却特性の解析結果を報告した。固定子外周部を液体水素で
冷却し、またギャップ部をヘリウムガスで冷却した際の詳細な解析結果が示され、例えば許容侵入熱と液体水素流速の関係が議論された。
2P-p19:鉄道総研の山下らは、山梨県米倉山太陽光発電所の電力貯蔵技術研究サイトで実施している超電導フライホイール蓄電システム(FESS)
実証機(NEDO助成事業)の試験現状を報告した。同機は出力300 kW、蓄積容量10 kWh、回転数3000 rpmである。約12時間にわたる回転数3000 rpm⇔
2100 rpmの繰り返し充放電においても超電導磁気軸受の温度上昇が0.3 K以下に抑えられるなど、長期信頼性の検証他が示された。
2P-p20:鉄道総研の宮崎らは、147 kN の浮上力を発生可能なFESS用のSMBについて、断熱荷重支持材の設計結果と信頼性評価試験結果を報告した。
常温で49 kN×150 サイクルの引張試験を実施し、劣化が無いことなどが説明された。
2P-p21:鉄道総研の嶋崎らは、FESS向けの大口径高速回転磁性流体シールに関する検討結果を報告した。回転安定化のため軸径をφ100 ㎜からφ200 ㎜
に大径化し、また低粘度で耐熱性の高い磁性流体を新たに開発したところ、高い周速にもかかわらずその温度上昇が十分低い値に抑えられていた。




5月30日(水)
A会場

Y系線材評価 3A-a01-06 座長 山崎 裕文

「3A-a01:土井(京大)」配向銅テープに導電性中間層(NbドープSrTiO3)を蒸着し、その上に(RE)BCOを作製することによって配向銅テープをクエンチ
時の安定化材としても使用して、さらなる銀・銅の蒸着を省略することを意図している。導電性中間層の抵抗率を変化させて(RE)BCO層から安定化銅への
電流分流をシミュレーションし、きれいに中間層を成膜できれば分流距離を十分小さくできるとのことである。
「3A-a03:木須(九大)」1 mm 幅に細線加工した(RE)BCO コート線材の超電導層同士を対向させて低抵抗接続を行う Face-to-Face Double Stack: FFDS
構造によって、局所欠陥に伴う電界集中を低減させて安定化させる研究を行っている。モデル計算により、ハンダ接合でも充分大きなIc向上効果が見込
める事がわかった。
「3A-a04:泊瀬川(東北大)」(RE)BCOコイルの新たなクエンチ検出手法として、低温超電導検出器を使用する方法を提案しており、今回、(RE)BCOコイル
がクエンチした場合に NbTi線材でクエンチ検出を行うシミュレーションを行った。ホットスポットによる局所クエンチに対応できるかどうかは今後の課題
とのことである。
「3A-a06:冨塚(明治大)」超音波透過信号の周波数依存性を測定して、(RE)BCOテープ線材の剥離診断を行っている。実用的に重要な研究と思われるが、
測定の原理から含めて報告してほしかった。




5月30日(水)
B会場

安定性・保護 3B-a01-06 座長 淡路 智

学会3日目午前に行われた「安定性・保護セッション」では6件の報告があった。すべての講演はREBCOコイルに関するもので、最初の3件が無絶縁
コイル、2件が線材、1件が絶縁複数共巻きコイルに関する発表であった。以下に詳細を示す。
無絶縁(NI)コイルは自発的保護(self-protection)が働くため高いクエンチ保護特性を有していることが知られているが、一方でコイル内部の電流
制御が不可能とされている。このため、複数個のコイルから構成されるマグネットでは、その挙動が未解明である。早稲田大学の尾下(3B-a01)は、
無絶縁コイルを複数個積層した場合の影響について、77 Kにおける実験と計算の結果を報告した。一部のコイル内部に擾乱(劣化)が発生した場合、
当該コイル内部では巻線間電流による発生磁場の低下と電圧の発生が起こる。このとき、上下に配置されたダブルパンケーキコイルにも、磁気的
カップリングにより逆方向の電圧と、磁場の低下が起こることを実験と数値計算の両方で示した。北大の野口(3B-a02)は、15 T中で6個のダブルパン
ケーキコイルを積層したNIマグネットで強磁場を発生させた場合、劣化コイル以外のコイルに誘起された電流が電磁カップリングにより定格の3倍
以上となり、これによるフープストレスで多くのコイルが劣化することを数値計算によって示した。東芝の宮崎ら(3B-a03)は、導電性樹脂を用いて
パンケーキコイルの上下に導電性を持たせた伝導冷却NIコイルについて報告した。その結果、伝導冷却においてもNIの自発的保護が有効であること
を示した。京都大の雨宮(3B-a04)と羅(3B-a05)は連報で、150 mm長の直状試料を用いて30K、 2 Tにおける局所温度上昇(ホットスポット)による
劣化に対する保護について報告した。実験は異なる安定化銅の試料を用い、保護抵抗による保護を摸擬した実験を行った。指数関数で減衰する電流
に対して、劣化が起こらない限界電流密度を調べた結果、時定数1-1.5秒の場合には、従来の電圧によるクエンチ検出と保護抵抗でもある程度の保護
ができる可能性があるとした。東北大の西岡(3B-a06)は、素線絶縁のない2積層線材で構成した75ターンコイルについて、数値計算によって内部に欠陥
がある場合とない場合の偏流を計算した。その結果、高速励磁直後では大きな偏流が起こり、コイル内側と外側で線材に流れる電流値が逆転すること、
偏流は時間と共に減少し最終的にはほぼ同じとなることを示した。一方で、線材内部に欠陥がある場合には、その部分で電流の迂回が起こることで
保護が可能であることも報告した。
NI技術は、安定性が高く局所劣化の可能性があるREBCO線材を安定に用いる有効な方法として知られているが、複数コイルで構成される場合には注意
が必要であることが改めて認識された。広義のNI技術をうまく利用した保護技術の可能性が示されたセッションとなった。




5月30日(水)
C会場

回転機(2) 3C-a01-05 座長 三浦 峻

本セッションでは計5件の講演があった。
「3C-a01: 寺尾(東大)」埋め込み永久磁石型同期モータの界磁部分にバルク超電導体を用いた新しい構造を提案し、電磁設計を行った。超電導体の
磁気遮蔽特性を利用し通常の永久磁石を用いるより高いリラクタンストルクが得られることを示した。
「3C-a02: 寺尾(東大)」100人乗りクラスの電気推進旅客機では、モータ単体での出力密度として20 kW/kg以上が必要とされている。発表者らは全
超電導モータのバックヨーク重量削減による出力密度向上と漏れ磁束の関係性について調べた。バックヨーク厚さ8.8 mmのとき22.9 kW/kgの高い出力
密度が示された。
「3C-a03~05: 中村(京大)」高温超電導誘導同期モータに関する、(03)過渡回転特性の検討、(04)熱等価回路の解析コードの開発、および(05)飽和
磁束と機械応力の観点からのトルク密度限界の検討を行った。特に(05)の講演では、HTS回転子と銅固定子により構成される20 kW級モータの体格の違い
による限界値を支配する制約を調べた。その結果、体格を小型化することで磁束飽和から機械応力の限界が支配的となることを示した。




5月30日(水)
D会場

送電ケーブル 3D-a01-05 座長 筑本 知子

本セッションでは5件の発表があった。
3D-a01:遠藤夏実ら(東北大)は日本近海での洋上風力発電の海底ケーブルへの適用を想定し、10 km長のイットリウム系三相同一軸高温超電導ケーブル
の構成について、交流損、圧力損、熱侵入等を考慮にいれた熱解析を行った結果より、導体と外側冷媒流路間に低熱伝導層を設けることにより侵入熱
が大幅に抑えられ、長距離化できることを述べた。
3D−a02:我妻洸(早大)らは実用規模の3 km長66 kV系統HTSケーブルの短絡事故時の温度上昇に関して、31.5 kA-2 sの試験条件にて熊取で実施した40 m
の試験データを用いて熱シミュレーションを行った結果を報告した。
3D−a03:山田貴雄(日揮、石狩超電導・直流送電システム技術研究組合、地域低温熱エネルギー利用電力システム実用化研究会)らは、石狩の1 kmの超電
導直流送電システムを用いた実証試験データをもとに、50 kmおよび100 kmシステム設計について熱・流体力学検討を行った結果を報告した。それによると、
石狩のシステムの熱輻射シールド付き断熱配管と同じ設計で、リターン管径を50 A→80 A、ケーブル管径を65 A→90 Aと大きくし、かつ、冷媒流量を60 L/min
とすれば、100 km長においても循環系の圧損は1 MPa以下、ケーブル温度上昇ΔTは2 K程度となり、十分システムとして成立するとのことであった。
3D−a04:東川甲平ら(九大)は再生可能エネルギー利用において問題となっている大きな出力変動に対して、インダクタンスの大きな超電導ケーブルを直流
で運用することで、エネルギー貯蔵機能をケーブルそのものにもたせることを提案し、10 MW級のマイクログリッド(1 kV、10 kA)でケーブルのインダクタ
ンス20 H(2 H/km×10 km)についてシミュレーションによる検討から、想定される5 MW程度の出力変動補償が十分可能であることを述べた。
3D−a05:伊藤悟ら(東北大)はBi2223およびRE123系線材接合方法として、インジウム箔を超音波接合させる方法を検討した結果を報告した。RE系では再現性
よく30−35 nΩの低抵抗接合が得られIc値の低下もなかったのに対し、Bi2223では18−25 nΩの低抵抗接合が得られたもののIcの低下がみられ、今後その原因
特定と条件最適化が必要であるとのことである。